極短編 だるまさんに足がある

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 錆だらけのワンボックスカーは、渋谷からの帰途で首都高速を走っている。  乗っているのはイベント会社が手配したアルバイトばかり。ハロウィンとは名ばかりのコスプレ大会にサクラで参加してきたからだ。  で、身にまとっているのは会社が用意したコスプレ衣装。奇抜な恰好を喜ぶ奴もいただろうし、着たくもない服に辟易とした奴もいるだろう。後部座席に座らされ、コスプレとは名ばかりの巨大な着ぐるみを着せられた僕は、もちろん後者の種類に属する。  コスプレするとは聞いていても、重くて汗臭い着ぐるみの中に入るなんて聞かされていなかった。おまけに会場に到着したら、二時間ぐらいぶっ通しで着続け、来場者の応対をした。  そもそも、着ぐるみそのものがとんでもなく馬鹿げていた。  赤くて丸いだるまさん。  脚だけ出して、腕は着ぐるみに収めたまま。可愛いとか格好いいといった肯定的な感覚からは全く無縁。おかしい。狂っている。  だがその分、バイト代は魅力的だった。  金に釣られた自分に腹が立った。馬鹿野郎。アホンダラ。  自分だけの空間が所有できる着ぐるみの利点は、ゆっくりと自己嫌悪に浸れることに違いない。
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