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どれくらいそうしていたのか。
太陽の光は欠片も見当たらず、室内の照明が嫌に明るく感じる。
静まり返った空間。
そこに鳴り響いたのは――
♪~~♪~♪
「――っ」
「……」
この家の電話。
「待ってて」
恭はそういうと詩織を手放して、ゆらりと立ち上がる。
「……恭」
恭のジーンズを裾を掴んで心細げに見上げる詩織に、恭は優しく微笑んだ。
「大丈夫。少し待ってて」
その笑顔は以前の笑顔を同じ。
だから詩織も掴んだ手をそっと離した。
鳴り止まない電話。
恭は受話器を上げて、
「はい」
静かな部屋に恭の声が響く。
「今から行きます。なんでもないですから気にしないで」
優しい口調に詩織の胸がズキンと痛んだ。
多分、相手は――
「シオ?」
昔と変わらない呼び方にビクリと揺れる肩。
「――あ、ごっ、ごめん! あたしっ」
どうすればいいんだろう?
勢いで『ずっと一緒に――』なんて言っちゃったけど、恭にはもうその相手がいるわけで、
それでも『生きていてくれれば』と思う気持ちも偽りじゃない。
だからってこのまま帰るなんて――
そう思うのに、
「タクシー、呼ぶから」
そんな恭の声に身体が震える。
「――いっ、嫌」
「送るよ」
「えっ?」
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