落花流水

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予想外の台詞に驚けば、目の前に恭がふわりとひざまづいて手を伸ばす。 その手は詩織の頬を優しく撫でて、瞳の下をそっと拭った。 「シオが歩いて帰れるところまで送るから」 「そ、それなら――」 一緒に帰ろう? そう言いかけたしおりの唇は恭の人差し指にで塞がれて。 「仕事、行かなきゃ。いきなり休む訳にはいかないから」 「でもっ」 恭の手を握ってそう叫ぶ詩織に恭はにこりと笑った。 「大丈夫、咳だけだから。それも薬を飲んだら止まるし」 「……でも」 それで病状がよくなるわけじゃない。 この病気はそんなことじゃ治らないのを知ってるから―― 「行くよ」 恭の手が優しく詩織の髪を撫でていく。 「えっ?」 意味が分からず声を上げる詩織に微笑みながら。 「明日、卒業式」 「……」 「それが終わったら、シオの言うとおり病院にも行く」 「ホン、ト?」 確認する声にコクンと頷く恭。 「でも、今日は帰って?アルバイト先にも、カオルさんにも話さないと」 確かにその通りで。 本当なら今すぐにでも一緒に帰りたい。 恭の気が変わらない内に――。 だけど、 「明日、家に帰るよ」 「えっ?」 驚く詩織に恭は微笑んだまま優しく髪を撫でる。 「制服、着ないとね」 「……うん」 「きっと、怒られるね」 「ん、でも……」 それは心配してたから。 飲み込んだ詩織の台詞がわかったのか、恭は「そうだね」と呟いて彼女がばら撒けた荷物を拾ってカバンの中に。 「はい、シオ」 カバンを手渡しながら立ち上がるように促す。そして、 「帰ろう?」 その声に詩織はコクンと頷いた。
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