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「そんじゃ、終わりな」
彬の声にSHRが終わった。
教室から出て行こうとする彬を追いかけようと詩織が席を立ち上がると、
「……美紀?」
手を握られて詩織は止められた。
「やっぱりなんかあったでしょ?」
親友の声に『ないよ』とは即答出来ないのは長年の付き合いかもしれない。
「……先生に、手伝ってもらってるの」
だから、詩織は今の状態を正直に答えた。
『なにを』とは言わない。
言わなくても分かるから美紀なら感づいてくれるはずだから。
「手かがりが見つかったの?」
その声にコクリと頷く。
でも、それ以上は言えない。
「だから、先生に聞きたことが……」
厳密には頼みたいことだけど。
そんな詩織の声に美紀は真剣な顔をして、
「あたしも、行こうか?」
そう言ってくれたけど、詩織はフルフルと首を振る。
「大丈夫」
きっぱりとそう答える詩織に美紀もそれ以上はいえなくて「そっか」とだけ。
「じゃ、行ってくる」
美紀の手を離れて詩織は走っていった。
その姿はほんの少し寂しいなんて――。
「なんか、子離れできない母親みたいじゃない」
美紀はそう呟いて詩織の背中を見送った。
「先生?」
ノックも無く開けたドアは『数学準備室』
「お前ね、ノックくらい――」
「今日も放課後連れてって」
「……」
「近くまででもいいから」
そんな台詞に彬はため息を。
「で、次からは一人で行くって?」
「だって、毎日連れて行ってもらうわけには行かないでしょ? だから、今日もう一度行って携帯のナビに登録すれば――」
次からは自分で行ける。
そんな想像通りの台詞には呆れるしかない。
「あの辺りは治安が悪い。お前には理解出来んだろうが、女子高生が夜一人で歩くような場所じゃ」
「平気、それなら着替えれいいでしょ?」
「あのなぁ」
制服から着替えたところで彼女の『お嬢様』オーラは増すだけ。
そう伝えたところで真っ直ぐな瞳は意思を曲げたりはしないから、
「わかった。ただ、条件がある」
「――えっ?」
そんな彬の台詞に身構える詩織に彼はフッと笑った。
そして、
「必ず俺と行くこと、一人では決して行かないと約束するなら連れてってやる」
そんな条件に詩織は少しホッとするように肩を上下させて、
「うん、分かった」
素直にそう答える詩織の頭に彬はポンと手を置いて笑った。
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