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マンションの一室。
窓からほのかに零れる明りに人がいるのは分かる。
そのドアの前に立って小さく深呼吸。
「俺が押してやろうか?」
彬の声に詩織はふるふると首を振って、指をチャイムにかける。
ゆっくりとチャイムを押して――、
聞こえてくる電子音。
それに答える声はない。
けれど、詩織はじっとそのドアの前で待った。
「出ないの?」
カオルの声に恭は顔を背けた。
昨日より少し遅い時間。
だけど、この家に訪れる人なんて限られているから。
「すぐに諦めて帰るよ」
「そんな想いなら今日も来たりしないと思うけど?」
カオルの声に答える言葉がない。
それでもソファから立ち上がろうとしない恭に、カオルは小さく息を吐いて呆れるように笑った。
「嬉しいんでしょ?」
そんな台詞に思わずあげてしまう顔。
「まだ、君は子供なんだからもっと素直に生きてもいいと思うわよ?」
「もう、18だよ」
「そうやって歳を言うあたり子供だっていうのよ」
カオルはそう言うと玄関に。
「カオルさん?」
「居留守使うの好きじゃないの」
手をひらひらさせながらスタスタと向かって、ガチャリとドアを開けた。
「いらっしゃい」
「あっ、あの」
にっこり笑うカオルに目を見開いた詩織。
そして、
「また、んな格好してんのか?」
「セクシーでしょ?」
レースをふんだんにあしらったキャミソールをふわりと揺らすカオルに彬は呆れるようにため息をついた。
「阿呆か」
「わざわざ漢字で言うあたり嫌味な男ね」
「てか、お前のペットは?」
「拗ねてソファから動かないの」
二人のやり取りに「あ、あのっ!」と詩織の声が下から上がった。
「ん?」と詩織ににっこり微笑むカオル。
「恭は、大丈夫ですか?」
そんな第一声にカオルは薄く笑った。
「えぇ、朝方咳き込んでるけど。あと、少し微熱があるかな? でもそれ以外は拾ったときと変わらないわよ?」
その答えにしおりは小さく息を吐いた。
それからスカートをギュッと握ってカオルを見上げて――、
「でも、一日だって早いほうがいいんです! お願いです、あなたからも恭に手術を受けるようにいってください!」
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