落花流水

5/39
前へ
/39ページ
次へ
カオルの前で思いっきり頭を下げる詩織。 その姿に後ろにいる彬を見れば、彼は何も言わずそんな姿の詩織を見つめるだけ。だから、 「わかったわ。っていうか聞こえてると思うけど」 苦笑するカオルに彬も釣られて口の端をあげる。 そして、 「あ、あのっ、これ!」 詩織がポケットから取り出してカオルに差し出したのは―― 「あたしの携帯番号です! 何かあったらすぐに連絡ください!」 可愛い文字で書かれた詩織の携帯番号。 カオルはそれを受け取って、 「ん、了解」 その声に詩織はホッとしたように笑顔を見せた。 「お仕事前なんですよね? すみません、お邪魔しちゃって。それじゃ……」 詩織がそう言って帰ろうとするから、 「あら、いいの? キョウに会わなくて」 カオルも思わず引き止めた。 だけど、詩織は眉尻を下げて「はい」と笑う。 「これ以上ここにいたら、きっと恭にを怒らせてしまうから」 そんな台詞にカオルは一瞬驚いて、それから、「そっか」と笑顔を見せた。 そして、 「また、おいで」 「えっ?」 予想外の台詞に声をあげると、カオルはニカッと笑って、 「若い女の子がそんな寂しそうな顔しないの。狼につけ込まれるわよ?」 カオルの視線は当然――、 「なんの牽制だ?」 「ほら、心にやましい所があるから反応するのよ」 「てめぇ……」 睨む彬は無視して、 「見て、綺麗でしょ?」 カオルが詩織に見せたのはデコネイルされた自分の爪。 「……はい」 詩織がそう素直に答えるとカオルもニコリと笑う。 「もっと早くおいで。これ、やってあげるから」 「えっ? あ、でも」 「ここはあたしの家。誰にも文句なんて言わせない」 「……」 「こいつは高校生。んなもん、許可出来るわけねぇだろ」 「あら、自分それ以上のことをしてたくせに?」 「忘れたな」 きっぱりそう言い放つ彬をじっとを見つめて、 それから、カオルは詩織の肩を掴んだ。 「あのね、彬ったら高校生のクセに――」 「止めろっ」 けれど詩織の体は彬の手によって引き離されて。 そんな二人の会話に詩織もクスリと笑ってしまう。 そして、 「来ます」 そう口にする詩織。 だから、 「おいで」 と、カオルも笑顔で答えた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

537人が本棚に入れています
本棚に追加