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夜の産婦人科病棟で。
「フェルローズ、どうだい?」
フェルローズと呼ばれた女は、ピンクの髪を今は降ろして、大きなお腹をさする。
「出産予定日まで、あと二日だね」
メガネをかけた、エリオットは、フェルローズにしきりに話しかけている。
「エリオット、焦り過ぎよ」
「だって、フェルローズ、僕達の初めての子供なんだよ」
エリオットとフェルローズは夫婦である。
「エリオット、落ち着いて!」
「フェルローズ、出産したら、君が、また、ステージの上で、歌ってくれるのを待っているよ」
「えぇ」
フェルローズは、歌手である、その美貌から『魅惑の歌手』だとか『今世紀に舞い降りた天使の歌声』などと呼ばれている。
エリオットとの出会いは、マネージャーだったエリオットが、フェルローズに何度も告白してやっと、結ばれた仲なのだ。
「ステージに立って歌う君は、それは、それは魅力的で……」
「エリオットたら……大変、お腹が痛くなった陣痛よ」
「フェルローズ!」
ナースコールを取るエリオット。
「フェルローズが……」
運ばれて行ったフェルローズ、その夜は。
「月食!」
『この時代では、月食に子供は生まれないとされている』
「大変だ」
エリオットは、冷や汗をかいている。
「どうか無事で」
フェルローズの娘は無事、月食中に生まれた。
「死ななかった……」
フェルローズは力なく笑った。
そこに、黒い服を着た男たちが来た。
「だれだ?」
見るからに、怪しいその人たちにエリオットは警戒する。
「国の者だ、月食に生まれた子供は連れて行く、それと、このことは、誰にも言ってはならない」
「! 待ってください」
エリオットは、赤子を抱いて、抵抗する。
「ミディアは渡さない」
しかし、ミディアは連れて行かれてしまった。
「ミディア」
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