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――2026年11月3日、財団法人・グローバルセキュリティ研究所
――2026年11月3日、財団法人・グローバルセキュリティ研究所、午前5時。
慌ただしく書類をめくり、急くような足音と苛立った声が飛び交う。そんな中、遠藤柊人は悠長にコーヒーをすすっていた。
ただ一人椅子に深くもたれ掛け、一仕事終えた後のように伸びをしたりする彼を島崎柚奈は忌々しそうに睨んだが、そんなことには動じない人に時間を取られている暇はない。
今はこの「Menrva」なる謎の会社について一つでも正しい情報を掴まなければならない。
「イナンナ」を発表してからこっち、まるで卒論発表前の大学生時代のような忙しさで自分がいつ寝たのかも覚えていない。
わかっていることは、この会社は日本に属していないということ。この名前が世界の目に初めて触れたのはもう5年も前だということ。
しかしその実態がほとんど明らかにされていないということ。そして、多額の資金を抱えているということ。
それだけしかわかっていないのに、委員会はイナンナを手放そうとしている。目の前にちらつかされた金の莫大さに思考をやめたのだ。
柚奈は憤っていた。自分たちが心血を注いで完成させたイナンナを、どこの馬の骨かもわからないやつらに渡すなんて考えられない。外国に渡すなんて、考えられない。
そう、彼女たちは日本のために、今は亡き技術大国復興のために苦労を重ねてきたのだ。
15年前の大震災の後、日本政府は外交どころか内政まで迷走させ、舵を失った国はいつしか経済大国の座から転がり落ちていった。
日本の技術はことごとく海外へ流出し、豊富な労働力のもとにより安く高性能な模倣品がつくられるようになるのを黙ってみているしかなかった。
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