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――ある会議室
――ある会議室。
「あなたの情報通りでしたね、アイ」
知的そうな老婦人が机の上で両手を組んで末席の方を向いた。
アイと呼ばれた青年は美しい顔に微笑みを浮かべ、首を振った。気品のある金髪が揺れる動きに数人がみとれる。
動きのひとつひとつがいやに優雅であった。まるで舞台を見ているような。
「いえ、すべてはXの指示です。私はただの代理人ですから」
「Xとは――」
「ルビンスキーさん」
何者か、そう問おうとした恰幅の良い中年男性を、老婦人が腕を組んだまま遮った。
「それは問わない約束です」
「しかし閣下……」
閣下、アンネ・オーベルシュタイン閣下が重々しく頭を振ると、ルビンスキーは納得しかねる表情を浮かべながらも引き下がった。
「申し訳ありません。信頼を勝ち得ないということは心苦しい限りです。しかし私にとって何よりも大切なことは、Xの安全なのです。そしてXの理想を実現させること――」
「つまりそのXとやらと方向性を違えれば、君は今すぐにでも我々と敵対する、ということかな」
アイは同じ末席近くに座っている、ひょろりとした猫背の男の方を向いて微笑んだ。
「そうならないように願います」
「君!」
「静粛に!」
老婦人アンネが声を張り上げる。彼女は会議室全体をゆっくりと見回し、頷いた。
「話を始めましょう。我々の理想のために」
アイはXの作成した要人リストを頭の中で広げた。遠藤柊人の名前が点滅する。
「まだ彼に死なれては困りますからね」
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