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オースティン・フィッツジェラルドはショーウィンドに映る自分の姿に満足していた。
アメリカ人ということを差し引いても東京というこの街で誰も違和感を覚えることのない今時の若者の姿がそこにある。
ただその華やかさが人目を惹きつけることが問題だ、と自分で思った。
高級感のある仕立てのスーツに身を包み街の中を歩くと、自分の品格が上がったような優越感を覚える。
エリートの気分を味わいながら彼はミッション内容を確認していた。どうも面倒くさそうだ。何故ならターゲットを殺してはならない、むしろ救うのが任務だったから。
エリート気分の彼は実際エリートだったのだが、それは救うのではなく殺すことに関する話であった。
ホテルに戻った彼はテレビをつけ、タブレット端末を操作する今回の相棒の前に腰掛けて足を組んだ。
「ルークさんも日本語わかるんですか?」
「ああ」
灰色を連想させる掠れた声が返ってくる。彼の鍛え抜かれた身体でスーツははちきれそうに思えた。熊みたいだ。
「僕は昔こっちにいたことがあるんで今回のミッションに選ばれたらしいですね」
ルーク・アジモフはタブレットから顔を上げた。坊主頭に堀の深い顔、冷たさが際立つそのブルーの瞳はなかなかの威圧感だ。
「オースティン」
「はいはい、無駄話は抜きでしたね。でもそろそろオズと呼んでくださいよ、親父に呼ばれたのかと思っちまう」
「……オズ、トライデント社の動きはどうだった」
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