――ある会議室

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 そんな中イメージ改善のためのプロモーションとしてオヴェールは富裕層をターゲットとした警備業務を開始した。 エージェントにエレガントな衣装と装備を身に着けさせてプロパガンダにするのが目的だったのだが、この事業は思いのほか利用者たちの好評を得た。 そうして新たにオヴェールのセキュリティ部門として独立、子会社化されたのがトライデント社であった。  当初は要人警護を主としていたトライデントであったが、各地で起こるデモや暴動に対して警察や軍に代わり鎮圧するといった依頼も請け負うようになる。 さらにはアフリカ南部の小国で起こった独立をめぐる紛争時に、同国政府の依頼を受けてほぼ政府軍として戦い、紛争を終結に導いた。 これをきっかけに民間軍事会社としての業務に力を入れるようになり、業務エリアは拡大し続けている。  そしてそのトライデントの日本支社。  入社三年目の工藤計はデスク上のスマートフォンをじっと見つめていた。 連絡が来るはずの時間を1時間も過ぎている。一緒に仕事をする森博は時間にルーズな性質でもなく、連絡義務を怠るタイプではなかった。 森はもともと警察の人間であり、工藤のような荒くれ者上がりとは違い、社会というものの中で十分生きてきた人間だ。 そんな森のような社員を工藤は軽蔑していたし、向こうも同じだろうと考えている。だから今回の仕事は気が重かった。 それに加え、フランス本部のエリートが来るという。工藤はため息をついた。無駄に気を張っても疲れるだけだ。  コーヒーでも入れようかと立ち上がった時、会社支給のスマートフォン端末が鳴り出した。 危うくマグカップを落としかけた工藤は咳払いをして気を静めると通話の文字をタップした。 〈ああすまん、おれだ〉
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