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「遅いですよ森さん、何か問題でもあったんでか?」
〈いや、まあ、そうだ。ところで今どこにいる?〉
工藤は少しいらっときたのを抑えるようにマグカップをゆっくりデスクに置いた。
「どこって、社で待機ってことになってたじゃないすか。そっちこそどこなんすか? もうこっちに着きます?」
電話の向こうで何かやりとりをしているのが聞こえた。もうフランスさんと一緒なのだろう、と思い、そういえばコミュニケーションがとれるのだろうか、と暗い気持ちになった。
フランス語なんて聞いたことすらないし、英語も中学レベルですら怪しい。
〈ああ、そうだ、すまん、ちょっと、いや……。そっちはすぐに出てこられるか?〉
何やら忙しいようで、森は有名な高級ホテルの名前を告げるとすぐ電話を切ってしまった。
「……これだから」
下のものはただ自分に従えばいいと思っている「大人」たちは大嫌いだ。それでも苦労して就職した努力を一時の気分で不意にしてはいけないと自分を落ち着かせ、工藤は社をあとにした。
こうやって人は大人になっていくのか、と思うとさらに気が重くなった。
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