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頭をさすりながら長太郎は真帆のヒントをメモする。結局交渉はジュース1本に落ち着いた。
長太郎が友達からもらってきてくれたティッシュで洟をかんだ真帆は、眠そうな目で長太郎を見る。省エネなのか、真帆のまぶたはいつも重たげだ。
「これでできなかったら君はもうだめだから」
「まあなんとかなるさ。よくわからんけど。さんきゅーな!」
メガネの向こうの目を輝かせてにかっと笑う長太郎の自信はいつも真帆にとって謎だった。
根拠のないものに対する非論理的な考えにはなかなかついていけない。それは真帆の育ってきた環境のせいでもあった。
真帆の両親は研究一筋の人種だ。子供に愛がないのではなく、ただ目の前のものしか見えなくなるタイプだった。
当時研究をしていた大学に泊まり込むことなんてざらにあり、幼い真帆を育てたのは祖母だった。
しかしその祖母の死後、遠藤家のマンションには子供だけの時間がほとんどであり、まわりの同級生たちに馴染めなかった真帆は小学生時代をほとんど独りで過ごした。
彼女の相手をしていたのは、両親が研究補助用として自宅に置いていた、一般家庭では考えられないほど高性能なPC機器だった。
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