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交渉? 真帆は嫌な予感がした。
ハッキングツールを売ってくれという交渉を持ちかけられたことがあったからだ。その取引が原因で真帆のハッキング技術は親に知られることとなった。そのようなことは二度としないと誓った。
それに、こんなことができるならばハッキングツールは必要なさそうだ。なら、何か。
〈どういう意味?〉
〈まず私の話を信じてもらわなければなりません〉
〈明日〉
それに続くメッセージを見た真帆は、息をのんだ。信じられないが、無視もできない。顔を上げた。繋がるだろうか。わからない。
真帆は席を立った。先生が教科書から顔を上げる。洟が垂れた。
「どうした遠藤」
「すみません、トイレに」
「おい、はよふけ馬鹿」
真帆は慌てて差し出された長太郎のハンカチを無意識に受け取り、盛大に洟をかんだ。
「授業前にすませておくよう心掛けろよ。訓練中にトイレはないぞ」
「はい」
廊下に出た真帆はハンカチを手に走り出した。連絡先から父の電話番号を呼び出す。しばらく待ったが、やはり繋がらない。
もう一度画面に浮かぶメッセージを見る。
〈遠藤柊人は拉致される〉
ひっ、と息を吸い込んで、真帆は父の会社に電話をかけた。しかし回線が込んでいて繋がらない。
父と父の秘書のようなことを務める島崎柚奈のPCにメールを送信してから、真帆はある番号に連絡するか逡巡した。
指先が重い。冷たい風が吹いた。背筋に寒気が走る。真帆は恐怖に駆られ電話をかけた。しかし相手には繋がらなかった。
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