砕けた欠片

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「仕事する事にしたの」 まともに顔を合わせたのは二日ぶりで だから貴方の声を聞いたのも 「…そうか…」 その一言だけで、すぐに新聞紙で隠れてしまったけれど それだけでも嬉しかった もっと   貴方が足りないから もっと… だから前の二人に戻れるように 私から彼に歩み寄ろうと 家にばかり引き籠もり、オシャレにも遠のいて 思考はマイナスの事ばかりのカサカサな妻 結婚する前の私に戻れば また私に向いてくれると そう信じて仕事も探した あの頃と同じ、この気持ちは変わらないから 貴方をもう一度振り向かせてみせる そう信じて… 「今日から仕事だろ」 久しぶりに着込んだスーツ フルメイクをしたのも、いつからだったか それだけでも背筋が伸びて 「今、朝ご飯の準備を」 既に作っておいた食事を温めようとキッチンに向かう途中で 「もう出るから… 明日からも支度しなくてもいい」 無情な彼の言葉に溢れそうになった涙を耐え 「いってらしゃい」 なんとか絞り出した言葉 既に背を向け、玄関まで向かう彼に届かなかった 滲んだ視界に耐えて、今まで現実から逃げてきた自業自得 そう、諦めるしかなった 「仕事、行かなきゃ」 呟いた独り言は自分を奮い立たせる為 用意していたサラダも卵料理も、野菜スープもゴミ箱に追いやって 独りきりの箱の中から抜け出した
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