砕けた欠片

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彼の両親は住み慣れたこの地から離れ、 年老いた父方の祖母が一人で暮らす地方に移り暮らしていた 「俺達もいつか家族を増やそう」 綺麗な髪の隙間から漆黒な瞳が揺れて 私に向けられる優しい眼差し 「そうだね」 そう言葉を返せば、強引に抱き寄せられ 嬉しそうに私の名を呼んで 甘く痺れるくらいの幸せ 結婚して一年目に訪れた変化 その日は体調が優れなくて 「大丈夫か?」 心配そうにベットに横たわる私を覗き込む彼 「大丈夫だから… 仕事に行く時間だよ」 少し無理して笑顔で送りだそうとしているのはお見通しで 「早めに帰るから、無理するな」 頬を撫でられ、彼の温もりに触れると それだけで満たされた 「本当に大丈夫だから いってらっしゃい」 彼の手に触れて一度だけ握り締めてからそっと離し 何度も何度も気遣う言葉を残し、出社して行った彼をベットの上で見送る 静まり返った部屋の中 お腹を両手で触れて まず、彼の顔が驚いて それから… 嬉しそうな笑顔をして そんな事を思い描いて 彼の帰宅を待ち詫びた
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