砕けた欠片

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「ただいま 今日はどうだったんだ?」 嬉しそうに私のまだ平らなお腹を撫でてくる彼 「次は二週間後に診察なの その時に母子手帳の手続きしますって」 赤ちゃんの発育の不安要素を 彼に話す事なんて出来なかった それを認めたくなかった 初めての妊娠で、きっとこんなものだろうと そうやって不安から逃げていた 「そっか…きっと… 今からだから、春頃には産まれるかな」 指折り数えて笑顔で応えた彼に 「早くお風呂に入って、ご飯にするから」 そう催促して、キッチンに隠れた 大丈夫 大丈夫… 大丈夫だから…だから… 呪文のように、何度も呟いて 食器棚には夫と私の茶碗 来年には哺乳瓶や、離乳食用の小さな食器も増えて 可愛らしい小さなスプーンとコップ ご飯を食べる暇もないくらいに賑やかで 彼の腕に抱かれて眠る我が子を 愛おしいと微笑む自分が存在して そう… だから…大丈夫… 温め直した味噌汁が煮詰まっていて、慌ててスイッチを戻した 程なく登場した彼に、いつもの穏やかな時間を過ごして 彼と重なる未来に馳せた
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