188人が本棚に入れています
本棚に追加
ううん。踏み込むのは止めよう。
関わらなかったら、またこの街から離れたら、
この花の香りもきっとすぐ忘れられる、から。
悄気るお兄さんの背中を見ると、気持ちが揺らぐ。
けど、お兄さんは追いかけて来ない。
こっちがしがみつかなければ。
「聖さん、パスタゆで上がったけど、仕事は?」
「――今日はもう休みます」
「そう? なんで元気無いの? デザートに桃剥こうか?」
エプロン姿で玄関を開けた響は首を傾げた。
お兄さんを心配げに伺うが、お兄さんは潤んだ瞳で響を見た。
「響は離れないで下さいね」
寄り添うように、響のエプロンにしがみつくとそう甘えた。
それ、わざとじゃないの?
って思うほどに。
「馬鹿みたい。ご飯、静也くんの店で食べてくる」
こんな空間に耐えれなくて、私はお兄さん宅から飛び出した。
飛び出した先が向かいなのは笑えるけど
最初のコメントを投稿しよう!