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「紅茶のお代わりは?」
「……欲しくない」
喫茶店の閉店作業をしつつ、barの準備中の忙しそうな時間に、夜ご飯をご馳走になっていた。
茄子とトマトのミートソースパスタ、サラダ、食後の紅茶。
静也くんは何も言わず出してくれた。
距離をやんわりと置いてくれるこの空気が、心地よかった。
「明日、出ていこうと思う。もう帰って来ないかも」
ティースプーンを、意味もなく指揮者のように振りながら言った。
やっぱり都会に出て、もうちょっと揉まれて、30歳前に結婚するか、男顔負けに出世するぐらい働こう。
そんな現実離れした事を考えながら。
「そらちゃんにも、聖の愛は重荷になるかぁ」
「いや。それが原因じゃないの。お兄さんなら婚約しても良いかも、と逆上せたりしたわよ。でも」
「響?」
静也くんは苦笑したから、多分私との関係を知ってるんだろう。
「お兄さんは知らないみたいね」
「ああ。でもあの当時、そらちゃんに彼氏ができたみたいって教えたら、結構傷ついてたよ」
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