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「その、さ。色々あって、すっげぇ権力ある人を怒らせちゃって、今逃げてんだ。事務所に迷惑かけたくないから、事務所も辞めるしかなくて」
海につくと、砂浜を一人で歩きながらそう言った。
ただ、ヒールのある靴の私は、駐車場から海岸に伸びる階段に座り込んだ。
この距離感が、今の私たちの距離に似ていて笑える。
「で、本当は何歳なの?」
「え?」
「どこの大学? 名字は?」
座って頬杖をうちながら、ただぼんやりと響を見る。
私が知ってた響は本当の響じゃなかった。
私は本当の私をさらけ出していたのに。
「井ノ山響。高校中退。年は24」
「はぁ!?」
24って、私より二歳年下じゃん!
しかも大学も行ってないの?
「香山って名前は事務所の社長の名字。高校ん時に母親が事故で死んで、中退して働いてた俺を探してくれて、借金まで立て替えてくれた、命の恩人。」
「そんなドラマみたいな話、信じられないんだけど?」
そう言うと、響は石を拾い、海へと投げつけた。
「ドラマなら良かったよ。やっとちょくちょく仕事が入ってきてたのに」
「本当だったら壮絶ね」
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