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「絵、見る?」
悟史くんがそう言いながら、ズルズルと段ボールをひっぱり、中からひとつずつ絵を取り出した。
「あ、ああ、うん」
緊張していた俺は、少し拍子抜けする。
「うわ…」
拍子抜けした気持ちが、また熱くなった。
あの頃の俺がいた。
ちょっと尖っていて、まだ頬の辺りには幼さもある。
ニキビの跡まで、丁寧に描かれていて驚いた。
「俺だ」
「でも、描いても描いても、本物の湘くんに会うと、全部違うって思って」
「そうなの?」
「うん。やっぱり湘くんは、絵に閉じ込められないなって思う」
「そっか」
悟史くんは、うん、と笑う。
俺は、なんだか悟史くんと同じ気持ちだ、と思っていた。
悟史くんが俺を絵の中に閉じ込めようとしたように、俺も、悟史くんを俺だけのものにしようとした。
お互いに、誰かだけのものになんてなれっこないのに。
「なんかもどかしいな」
「ん?」
「悟史くんとひとつになりたいよ…」
「……」
悟史くんは、黙ったまま俺にギュッと、抱きついてきた。
「おいらもだよ」
悟史くんの小さな顎を持ち上げて、キスをした…
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