愛しい君

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駅から車で15分。ポニーが青々と生い茂る草花を食べる草原の中心。 白い外壁に赤い屋根のメルヘンチックな建物。 海の家は大自然の中でペンションを経営している。 1階は5部屋の客室と小さな厨房があり、2階が海達家族の家になっていた。 スッキリしない頭を抱えて、白くペイントされた木のバルコニーに出た海は、自由に走り回るポニーを眺めた。 そろそろ時刻は7時になる頃。 廊下に出て左隣の兄、空(そら)の部屋の前を通り過ぎリビングに行くと、父親手作りの丸テーブルの上に、半熟ゆで玉子、ラディッシュのサラダ、チキンカツサンドが並んでいた。 甘いココアの香りが落ち着く。 4月は客がめったに来ない為、のんびり朝食を取る海の右隣に寝起きの空が座りココアに口をつけた。 「そうだ海。お前、今日図書館に行くか?」 「あぁ、行くけど?」 「じゃあ借りてきて欲しい本があるんだ。これなんだけどさ」 タイトルが書かれたメモを手渡した空は、 「そろそろ行かなきゃ。ごちそうさま」 残りのチキンカツサンドを手にして席を立つと、慌ただしく出かけて行った。 大学4年の空は就職活動で毎日忙しく、朝食の席以外は滅多に顔を合わせる事がない。 いずれペンションを継ぐつもりの海は、兄さんは大変だなぁと呑気にその背中を見送ると、大学へ行く支度をはじめた。
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