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AM6:50
靴を履き、首元の赤いリボンが歪んでいないか鏡でチェック
よし、いい感じ!
「おかあさ~ん、行ってくるね~!!」
玄関に立ち、台所にいる母に向かって声をかけながらドアノブを回す
一歩外に出ると、体にまとわりついてくる少し湿っぽい空気
「いってらっしゃい!気を付けていくのよ~」
母の声を背に、階段を駆け下りる
私、長沼 菫(ながぬますみれ) 高校2年生
家から電車で1時間以上もかかる高校へと通っています
駅までは歩いて大体20分ぐらい
私が住む団地から駅までバスが通っているけど、私はあえて利用せず、バス通りから1本入った住宅街を歩いて駅まで向かう
なんでバスを利用しないのかって?
それはズバリ健康のため
なんてね
本当は…
「…いた」
クルクルとカ-ルした髪の毛をボサボサに伸ばしたまま、私の数十メ-トル前を歩く男の子
同じ団地に住む彼は私と同じ高校に通っている
彼の名前は安東 洋稀(あんどうもとき)
私の好きな人
歩くスピ-ドをあげて彼に近づいていく
だんだんと縮まる距離に心臓がドキドキと早鐘を打ちだし、緊張からか口も乾いてくる
コホっと小さく咳をして
「おはよう、安東君」
少し後ろから声をかけた
あ、意識しすぎて声小っちゃかったかも…
そう思っていても、彼は少しだけ歩くスピ-ドを落としチラリとこちらを見るだけで、今日も何も言わずに歩いて行ってしまう
そう、これが私が高校生になってから続けている毎日の日課
でも一度も返事を返して貰ったことはない
チラリとこっちを見てくれるけど、視線も合わない
だって、彼の瞳はボサボサに伸びた髪の毛に覆われていて見えないから
声…聞きたいのにな…
でも振り向いてくれるだけまだいいのかも
プラスに考えないとね、落ち込んじゃう
駅に向かって歩く彼の背中を追いかけるように私も歩き出し、学校へと向かう
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