眼鏡と犬

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階段を上がり、2階にある自分たちの教室の扉を開ける 扉の向こうは、この学校の中でもかなり雰囲気が違う 「おはよ-菫、円♪」 「おはよ~う」 教室のあちこちから飛んでくる声に ホッと一息 私達が在籍しているインテリア科は、数年前にできたばかりの新しい学科で、クラスの大半を女子で占めている そのため、私にとっては楽園のような場所 とても男子ばかりの高校だとは思えないぐらい、匂いが違う だからなんとか通えているというのもあるんだけど 一番奥にある窓際の自分の席にカバンを置くのと同時に クラスの子に名前を呼ばれた 声のする方を見ると、廊下に立って手招きしている子が一人 その光景をみて 嫌な予感 返事をして近付けば、手招きしていた女の子の横に見知らぬ男子が一人 途端に胃の辺りが重くなる 真っ黒な髪の毛に黒縁メガネ、一見真面目そうな感じがするけど、耳にはいくつものピアスの穴が開いていて、さらには甘い香水の香り… 鼻の奥が詰まりそう… 「ちょっといいかな…?」 黒縁メガネさんは、人差し指で廊下の突き当たりを指さして促す 私は、1つ小さくうなずいて、後をついていった もう、聞かなくてもわかる こんな場所で、この状況で言われることなんて大体一緒 入学してから、これで何度目だろう… 廊下の突き当たりに着くや否や 「いきなりだけど、付き合って欲しい」 ストレ-トすぎる告白を、右から左へ聞き流しそうになる なんとか顔をあげているけど、黒縁メガネさんの目を見ることができなくて ジャケットの胸ポケットの辺りを見つめているしかできない この瞬間が、私はものすごく苦手 誰かに想ってもらえることは嬉しいことなんだけど、全然知らない人からの告白は凄く緊張する 知ってても緊張するけど なにより、男性と2人っきりのこの状況が、まず私にはたまらなく辛いことなのだ 廊下の窓から、少し湿り気を含んだ風が入ってきて そういえばまだ5月なのに台風が来てるって、夜の天気予報で言ってたなと、こんな時なのにフッと思い出した
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