眼鏡と犬

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「あのさ…」 黒縁メガネさんの声が、頭上から聞こえて我に返る 私のバカ! 今は、そんなこと考えている場合じゃないのに!! とにかく断らないと… 「あの、お気持ちはうれ…「いきなり付き合ってって言われても困るよな」 「はい?」 「まずは俺のこと知ってもらいたい」 「…」 言葉が出ない 私は断るタイミングを失ったんだ 少し体温が下がる なんて答えたらいいのかわからなくて、言葉を探していると、 黒縁メガネさんは腕時計をチラリと見て 「じゃあ、もう時間ないから昼、また来る」 そう言い、肩をポンと叩くと廊下を歩きだした 断らなきゃと思っていると、廊下の角を曲がる所で振り返った彼は 「あ、俺の名前、寺市 倫太朗!覚えといて」 それだけ告げると、角から見えなくなってしまった ただただ呆然と立ち尽くす ザワザワする 一日の始まりなのに、昼のことを考えると気分が重くなる 廊下の窓から外を見ると、中庭を挟んだ向こう側の校舎の教室に、クルクルボサボサの見慣れた頭 その頭に、 少しだけ心がフワっと軽くなる でもすぐに気分が沈み込んでしまい 「ちゃんと断らなきゃ…」 窓の桟に手をかけてうつむき、上履きを見ながらポツリとつぶやくと 足元に影が近づく 顔を上げれば、マドちゃんがすぐそばに立っていて 「いつもの?」 「…うん。でも断るタイミングなくしちゃって…」 「大丈夫? 」 心配そうに、私の目を見て聞いてくるマドちゃんに、やんわりとした笑みを返す 「大丈夫。ちゃんと断るよ。あの人の気持ちに応えられないのは明白だから」 ため息交じりに呟いて、窓から向こうの校舎に視線を移す 私の気持ちは決まっているから この気持ちだけは、誰にも揺らがない… その気持ちを胸に強く抱いて、その場を後にした
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