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「そんな事言わないで、ね?痛くしないよ、すぐに終わるから」
「何か違う気がする!」
言いたい事はわからないでもないが、出来れば違うシチュエーションでかつ自分が言いたかった。少なくとも女性の言う言葉ではない。
和馬のツッコミに少女は「えー」と拗ねた様に頬を膨らませた。非常に、あざとい。
「でも可愛いのが何か悔しい」
「うふふ、でしょでしょ?ほら、だから、ね?いいでしょ?」
「いい訳ないだろ」
人の命を何だと思ってるんだ。いや何とも思っていないのはわかるけど、かと言って何の旨味もない一夜の過ちはやめて欲しい。
「あと俺、年上趣味だから。どうせならクール系の綺麗なお姉さんとかがいい」
殺されるのにいいも悪いもないと思うが酔いからか焦りからか口が滑る。何を言ってるんだと情けなく思うけど、出てしまった言葉は訂正がきかない。
もう、どうにでもなれ。最後の言葉が性癖暴露と言うのは、なかなかつらいけど。
観念した様に目を閉じた。来るであろう衝撃に身を構えるが、和馬が感じたのは痛みでも何でもなく声にならない悲鳴だ。
「___!!」
獣の咆哮地味た声に恐る恐る目を開けると、そこには血を流すだけの人形が増えていた。
「ひっ!!」
情けない声をあげた彼の背中を温もりが包む。同時に伸ばされた手には、赤黒い液体に染まったナイフが収まっている。
「あはぁ」
いやに生々しい吐息が首筋にかかってくすぐったい。背中に押し付けられた暖かく柔らかいものから、彼女の激しい鼓動が響いた。
そのまま首を刈られる自分の姿を幻視してしまう。だが何時までたっても現実が妄想に追いつくことはない。
どれ位たった事だろう。数秒か数分か数十分か、時間の流れが麻痺しかけた頃に伸びた手に収まっていたナイフが落ちた。
空になった手が次の標的と言わんばかりに首にまわされる。まさか絞殺する気かと体を硬直させたが、徒労に終わった。
「うぅ、さむい」
「そりゃあな!!」
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