第2話

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その頃、あいつがスランプ気味だったのは周知の事実で。 入学以来守り通してきた1位の座から前回の定期試験で初めて陥落した事は俺でさえ知っていた。 だから少し嫌味を言ったつもりだった。 ほんのちょっとの嫌がらせ。ただ、それだけだった。 『…』 あいつは俺のほうに向けていた顔を背けると、窓枠から手を離しすたすたと歩き始めた。 何も言わず突然自分から離れ始めた背中を見て、俺はなぜか狼狽した。 何か言わないと。このまま行かせたら駄目だ。 直感的にそう感じた。 このまま行かせてしまったら大変な事になりそうな気がした。 だからなのか、考える前に声が口から滑り出ていた。 『なあ!お前なら大丈夫だから!俺、信じてるから!!』 今になってみればどこまでも無責任で意味不明な台詞だ。 根拠どころか接点もほぼ皆無の俺達だ。 何をもってお前なら大丈夫だなどと言えたのだろう。信じてるって何だよ。 返す返すも青臭くて馬鹿だとしか評価のしようが無い、自分で自分が嫌になる。 思わず溜息が漏れる。いつの間にかまた落ちてきていた前髪をかき上げた。 その時あいつが何を思ったか知らない。 ただ一瞬歩みを止めたのは覚えてる。でも振り向かなかった。 そしてまた歩き始めた。 馬鹿な俺にはもう言うべき言葉は思いつかなかった。 …ああ、何でこんな事思い出したんだろう。 今日も暑くて、蝉が馬鹿みたいに鳴いているからだろうか。
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