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十年前に日本海に建設された人工の島、奈落島。その奈落島の青い空に白い雲が一つ漂っている。
「(……ソフトクリームに見える。美味そうだ)」
その雲を教室の窓際の後ろから二番目の席から涎を垂らしながら眺めている男子生徒がいた。
授業中に。
「聞いているのか『湯川鯉(ゆかわこい)』!」
教壇から怒鳴り声が響き、それと同時に教科書が湯川鯉と呼ばれた雲を眺めていた男子生徒に向かって飛び、教科書の角が頭に直撃した。
「痛って!」
教科書の角が頭に直撃した湯川鯉と言う黒髪ロングウルフカットで青眼の、白いブレザーに水色のYシャツに黄色のネクタイに白いズボンの制服姿の男子生徒は頭を抑える。そして、鋭い目付きで教科書を投げてきた人物を睨む。
「何すんだよ『世良(せら)ちゃん』!」
「年上を馴れ馴れしくちゃん付けで呼ぶな!」
教壇に立つ黒髪ロングヘアで黒い瞳の、フリルが大量に付いた紫のミニスカドレス姿の身長が一五〇センチメートル以下の美少女は、怒鳴りながらスカートの中から金色のコンバットパイソンを取り出し、容赦なく湯川鯉に向けて銃弾を放った。
「ぐっはぁっ!」
銃弾は湯川鯉の眉間に見事に当たり、湯川鯉は衝撃で椅子ごと後ろに転倒した。
大事件である。
教師が授業中に生徒を射殺した。この事実は間違えなく警察が出動し、ニュース沙汰になる程の大事件なのだが、
「……ぉおおっ! 痛ってぇえええええっ!」
湯川鯉は何故か生きていた。
眉間は赤くなってはいるが、血は流れておらず、湯川鯉は眉間を抑えながら床をゴロゴロと転がりのた打ち回っていた。
「おいコラ! 何すんだ世良cha」
湯川鯉の言葉を遮るかのように再び銃声が鳴り響く。湯川鯉の右頬からは血がツーと流れていた。
「最初の弾はペッパー弾だが、二発目は実弾だ。……次馴れ馴れしくちゃん付けで呼んだら実弾を眉間にブチ当てるぞ湯川鯉」
「……俺の知り合いに『ケルベロス』で一番偉い第一部隊の隊長がいるんで通報しますね」
湯川鯉はズボンのポケットからスマートフォンを取り出して操作する。そしてスマートフォンを耳に当て電話を始めた。
プルルルル、プルルルルと電話のコール音が教室に響き渡った。
【私だ】
そしてその電話に世良が出た。
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