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【愛しい綾へ
最後まで母親らしいことが出来なくって、本当にごめんなさい。恋愛に生きた母を、貴方は一生許さないでしょう。どんなに憎まれても、綾……私は貴方が大好きです。忘れることはありません。
綺麗な貴方の成長を離れて見守っています。落ち着いたら必ず迎えに行きます。
母より】
煌びやかな手紙で折鶴を折り、机の上に置いた。
これが貴方への最後のプレゼント。
……息が苦しい、胸が痛い――呼吸が荒くなる。
駄目。これ以上ここにいたら決心が、感情がバラバラになってしまう。
フラフラに体を揺らしながら、ビトンのバックをかろうじて持ち、階段の手摺りを頼り一階へ下りた。
一先ずキッチンへ行き、使い慣れたコップを手に取り、水を汲み、飲んだ。
このでこぼこのコップは、綾が社会化見学で作り、持って帰ってきたコップだった。
――なんで手に取ってしまったんだろう?
ただの水道水が、自然が力を与える山水のように、とても美味しく感じられた。
グラスを愛おしくタオルで拭き、鞄にコッソリと忍ばせた。
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