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 今度は急に黙り込み、やはりじっとこちらを睨みつけてくる。  なんだか空気が重い。身体に錘でもつけられたみたいな感じだ。 「その変な感情はなんだって、そう聞いてんだ」 「感情? なんのことだ?」 「……入れない。こんなの初めてだ」 「え? なに?」 「オマエ、やっぱり怪しい。何者だ?」  これでは会話が成り立たない。  彼女はいったい何を言ってて、何を伝えようとしているというのか。    そんな矢先だった。  けたたましくサイレンを響かせた救急車がけが人を搬送するために走り去っていった。  それまで餌に群がる鳩みたいに集まっていた人だかりも徐々に散り散りになっていく。    赤い髪の少女も同様に、淳平をにらみつけるのを中断してその光景をじっと見つめていた。 「何があったのかな?」 「さあな。狭い町だ。今夜のニュースにでも流れるだろ……っていうか、なぁにナチュラルに話しかけてんだよ」  再び、少女の怒りの矛先がこちらに向いたらしい。  思い出したみたいに眉を吊り上げて、少女は唸り声を上げた。 「変態ストーカー野郎となんか、会話しているだけで寒気がするって感じだ」 「だ、誰が誰をストーカーしてるんだよ。さっき会ったばかりじゃないか」 「いいや、あたしはオマエとなんか『出会って』ない。赤の他人。関わりのない人ってやつだ」  もはや、会話がどうこうというレベルではない。この短時間でよくも人をそこまで嫌えるものだと関心すらしてしまった。  見た目に反して横柄で乱暴かつ粗忽者。彼女の印象はそっちに塗り替えておかなくてはならないようだ。    そんなことを考えながら、茫然と固まっていた淳平を最後に睨みつけてから、少女は踵を返した。  そして足早に、振り返りもせずにその場を立ち去っていく。 「どした? 知り合いでもいたか?」  タクシーをつかまえたらしい零子に問われたところで、ようやく淳平は我に返る。 「いや、なんでもない」  女の子に見とれていたら急に怒られた。なんてとても言えるようなことじゃない。  もし零子にバレてしまったら、向こう一年間はそれをネタに馬鹿にされるに決まっている。
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