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同じ顔をした人間なんていない。
牧野はふと、そう思った。
別にそれは普通のことだ。
自分は自分以外いなくて、それに伴い、顔の造形も異なる。
しかし、一つだけ。
一つだけ、まるで鏡をみるように常に自分の顔と付き合っていなくてはいけない例もある。
牧野は、自分が臆病だと知っている。
“強い自分”は、今はもう、遠い場所にいて、所在さえ、こんな自分では探すことなど出来ないだろうし、勇気もない。
私はもう、全てを諦めたし、総て諦めるべきだ。
『連れていかないでっ!
お願い!連れていかないでっ…!!!』
叫んでもどうにもならないのだと、今なら教えてやれるのに。
手を伸ばしたお互いの指先は、結局触れることはないのだから。
牧野は空を見る。
空くらいは繋がっているかもしれないなどと、馬鹿なことを考えるのはこれで何度目か。
数え切れない程神に祈ったけれども、一度も願いが届くことはなかった。
(求道師である自分の願いが叶えられないのなら、誰の願いなら叶えるというんだ)
結局自分が一番、神の存在を疑っているなどと、この純真無垢な村人達の誰が疑うだろうか。
目を閉じ、祈る。
祈る相手は、決して神ではない。
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