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『ねえ、知ってるかい?
僕ら本当は、一人だったんだよ』
幼い声が耳元で囁いた気がした。
少し気怠げに身を起こし、隣を
チラとみる。
まだ夢の中にいることを目の端に捉え、渇いた喉を潤すべく、床に足をつける。
素足には少し冷たい床が心地よい。
朝の気配に目を細めると、白衣を羽織って窓を開けた。
清々しい風が頬をなで、宮田は
目を細めた。
『ねえ、知ってるかい?』
知ってるよ。
誰ともなしに呟いて、台所へと
向かう。
やかんを火にかけ、茶葉をとりだす。
いつもなら朝食は適当にすませるのだが、今日は“客人”がいるから、そうもいかない。
目玉焼きに食パンで、いいだろうか。━━━まとも、だろうか。
『僕ら本当は、一人、だったんだよ』
知ってるよ。
この、他人と自分を区切る皮膚ができるずっと前。
息をする事も知らず、水に泳ぐ魚であったとき。
小さなたまごの中で、“ひとつ”だった。
知ってるよ。
もう一度呟いて、宮田は卵を
ぐしゃりと割った。
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