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「やっぱり僕はだめなんだ…」
私の膝に額をつけて、哀れなほどに泣く子供の髪をすいてやる。
それでも泣き止まない子供に、
優しく問いかけた。
「今度はどうしたの?」
「声が聞こえる!あれは何!?」
またか…。
最近この子供は、知らない声が
聞こえると言っては怯えている。
自分だったら、知らぬ声なら無視すればいいと思うのだが、繊細な神経を持つものにはなかなかに堪えるらしい。
ふふ…
私のかわいい子…
「ずっと、ずっと、話しかけて
くるんだ!」
怯える子供の髪をなで、いつも
通りの言葉をかけてやる。
そうして抱きしめてやれば、この大きな子供は安心して眠ってしまうのだ。
「大丈夫。そんなのは幻聴。
あなたは何もおかしくない。
なんににも怯えなくていいの。
考えなくていいのよ。
私のかわいい子…」
そう言って頭を抱きしめる。
いつもならこれで大人しくなるから、あとはベッドまで連れていってやればいいだけだ。
━━━━━そう、いつもなら
「違う!!!」
そう言って八尾を突き飛ばす。
いつもと違う反応に、八尾は目を見張った。
しかし牧野は、突然周りのものをひっつかむと、次々と壊してい
く。
「違う!違うんだ!!
怖い!怖い!
“俺”はどこ!?
“俺”はどこ!!?
連れていかないでっ!
お願い!連れていかないでっ…!!!
いやだいやだいやだいやだ」
牧野はしゃがみこむと、そのまま膝をついて信者の椅子にしだれかかった。
近づいて、意識がないことを確かめると、八尾は牧野をかついで
ベッドに寝かせる。
少し切れてしまった牧野の手のひらを手当てしながら、一人の人物を思い浮かべた。
牧野とまったく同じ顔をしていながら、どこまでも違う。
あまりの恐怖に、牧野は“強い自分”を無意識に求めたのだろう。
もしくは、自分の足りないものを補おうとしたのか。
回帰本能とでもいうべき精神で、彼は求めているのだ。
━━━━━もうすでに、覚えてはいないはずの半身を━━━━━━
手当てが終わり、立ち上がった
八尾の顔に、笑みはなかった。
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