日和

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「正直に答えろ。」 出来るだけ低く怖い声を意識して千里は男を見据えた。 「その包み、お前のものか?」 切っ先を当てられた男はガチガチと歯がなるほどに震えている。 「答え………あ、すまんこれでは話せんな。」 つき当てすぎて既に垂れてきた血を見て、千里は少しだけ刃を引いた。 「お前、そこを動くなよ。逃げれば次は頭に当てる。」 這いつくばって逃げようとしていたもう一人にしっかり釘を刺すと、千里は改めて男へ向き直った。 「それで、どうなんだ?」 「す、すみませ…」 「それは答えではない。」 ふむ、どうやら盗んだもので間違いなさそうだが、疑わしきは罰せよ……いや、なんか違うか? 取り敢えず持ち主に返してやらねば、と千里は絹の包みを差し出すように要求した。 男達は鉄針の一撃ですっかり威勢を失ってしまったようで、ほうけたように座り込んでいる。 「おいお前。この包み誰から…」 問いかけた千里は新たに近づいてくる足音に顔を向けた。 よく聞き慣れた進行の足音だった。 「あ…」 「あ。」 自然と割れた人波の向こうから見えた新緑の空のような鮮やかな浅葱の隊服が風に靡く。 鉢金の紐が白鷺の羽のようだと思った。 千里と男たちをみとめて歩み寄ってきた集団は、驚きつつも千里たちを囲んで静止する。 「なんだ、もう捕まえちゃったんだね。」 猫のように目を細めた隊服の男が状況を見て言った。 「はい。一番組の獲物でしたか」 「まぁね、でも見ての通りつまらない物取りだったし、気にしないよ。ありがとうね。」 珍しく礼を言われたことにほうけた千里は大人しく隊士に包みを渡した。 「君は今日は非番…あぁ、逢瀬だったか、悪かったね。」 茶屋から心配げに見つめる園を見た男は悪戯っぽく笑う。 「構わない。」 逢瀬に何らツッコミもせずに千里は答えた。 「…沖田さん、さっき姉さまと会った?」 驚いて眉を上げた男は直ぐにまた悪戯っぽく笑う。 「ほんと、犬みたいに鼻がきく子だよね、君。」 この男の名は沖田 総司。 千里の属する組織、新撰組一番組み組長にして天然理心流免許皆伝、そして、千里の天敵である。
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