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「さて、もう10ヶ月前になりますか? 我が校に転校生が来ましたね。そろそろ学校生活には慣れましたか?」
え、私?
2年生の列がある方を向いて、視線を泳がせる校長先生。
隣の男子が私に視線を流してくるのが分かる。
見てくんな……。
これだから、生徒数が少ない学校は嫌だ。
大勢が集まっている場で平気で個人へ向けて発言するところを、今まで何度も見てきた。
「新しい仲間が増えるというのは良いことです。ついこの間、転校生を迎えたばかりだと感じますが――」
ついこの間……。
校長先生の体内時計は、狂ってしまっているんじゃないか。
「実は今日、また1人、皆さん方と共にこの学び舎で過ごすことになった仲間が来ています」
ザワつき始める体育館に、他の人には分からない程度に眉を寄せる。
一瞬、そのザワつきが収まったかと思えば、1人の男子生徒が舞台袖から現れた。
2階のギャラリーの窓から射す光に、茶髪がかった髪が透き通って見える。
新しいだろう制服は既に着崩されていて、斜め立ちしている転校生に目を向ける私は、あんなところに立たされて……、と同情と少しの親近感を覚える。
緊張してる? してない?
彼の今の気持ちを想像して、自分の時はどうだったかと記憶を辿る――。
最初の顔合わせを全校生徒の前ですると知った私は、酷く緊張していた。
壇上に出ていく直前、たくさんの目が私に向けられるのだと想像したら、急に胸が苦しくなって――。
壇上の袖で、この学校に来て最初の発作を起こした。
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