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「なんでも。一言でいいから話しなさい」
私に言ったように、校長先生の微笑む声がスピーカーから小さく聞こえた。
あの時は、優しそうなその微笑みが悪魔にしか見えなくて。
担任の先生は、顔を出すだけでいいって言ったのに、早く壇上から消えたくて――
だから、言ったんだ。
“一言なら……さっき喋りました”
「一言だったら、さっき喋りました」
「……ん?」
「ほら、『なに喋ったらいいですか』って」
私はパチ、と一度瞬きをして、目を見開く。
校長先生は、ハンカチで額を拭いながら苦笑する。
私の時と、同じ顔。
違うことといえば、体育館にたくさんの笑い声があること。
壇上から降りてくる男子生徒を目で追いながら、無意識に開いていた口を閉じる。
先生に誘導される彼は、上級生の列へと加わった。
ひとつ先輩の3年生の列はすぐ隣にあって、ここからよく見えた。
校長先生が舞台袖に消えて、今度は生活指導の先生の“お話”が始まると、ふと後ろから声が聞こえた。
「おい、透けてない?」
「何が」
声変わりが終わった声。
男子の列のクラスメイトが、ヒソヒソと話をしている。
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