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――キ
転校生が回転椅子を利用して体ごと振り向く。
悪い意味で、ドキリと心臓が跳ねた。
「内宮さん?」
机に背中を預けて、確認するみたいに私の名前を呼ぶ。
「この中だと、どれが可愛い?」
プラスチックの容器を手の平に乗せて聞いてくる。
そう言われても……これ、何なんだろう。どれがいいって、選んで指を差せばいいの?
手の平の上に視線を落としたまま、心の中で早口になる。
「それが何なのか、まず説明してあげて」
クス、と笑って花保ちゃんが言うと、転校生が顔を上げて、さっきよりも近い距離で目が合う。
「ピアス。見たことない?」
こうやって対面して、人に話し掛けられるのは久しぶり。
私は視線を右に左に泳がせると、これ、と無言で指を差す。
ダイヤの表面みたいにキラキラしてて、ルビー色の小さなネコの頭が可愛いと思った。
ていうか、そもそも“可愛い”の選択肢が少ない。
他は、牛の鼻に付いている輪っかみたいなのと、シルバーや黒のビーズみたいなものしかない。
「これね」
そう言って私が選んだピアスを摘むと、片側の耳に付ける。
どうやって付けられているのか気になって、じっと見下ろして見入る。
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