1941人が本棚に入れています
本棚に追加
「なに?」
「あ……いや」
小さく言えば、『なんて?』と、転校生が耳の後ろに手を当てて耳を向けてくる。
ぷっくりした耳たぶの上で、ネコのピアスが光ってた。
ピアスの穴なのか、こんなとこにもというくらいたくさんの点がある。
「そんなに見んなよ」
また、まじまじと見てしまっていたらしい。
不快にさせたかもしれない。
ごめんなさいと謝ろうとしたら、転校生は口の端を広げて、
「穴が空いたらどうすんの」
と言う。
うっすら笑って、白い歯が少しだけ見えた。
その顔にまた、釘付けになりそうだった。
「あ――」
転校生が壁を見上げる。
釣られて私も見ると、壁に掛けられている時計が、昼休みが終わる3分前を知らせていた。
「先生、教室戻るわ」
「早く友達見つけなさいよー」
「そんなもん勝手に出来る」
ピアスケースを後ろポケットにしまって、丸椅子を片付ける転校生。
朝、体育館の壇上の下から眺めていた人が保健室にいて、いつも私が使っている椅子を手に持っている。
学年が違うし接点もないし、本来なら言葉を交わすこともなかっただろう人間が目の前にいて、なんだか変な感じがした。
その場に突っ立って見ていると、急に転校生がこっちを向いて、私は目を反らすタイミングを逃す。
「内宮さんは戻んねーの?」
「え……」
笑みが消えた顔に、怯んでしまう。
「私は……――」
最初のコメントを投稿しよう!