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「――だらしないから、シャツを入れなさい」
閉められる戸に向かって花保ちゃんが言葉を投げるけれど、向こうから返事はなく、窓に映っていた人影が離れると廊下を歩く上履きの音がする。
ここに残ることを選んだ私は、ベッドの方へと歩いた。
「午後も、ここに居ていいですか……」
教室に行きたくなかった。
自分に向けられる視線を想像しただけで、喉が詰まりそうになる。
「私、貴方には甘いのよねー。職員室で注意されたことがあるくらい」
ベッドに腰掛けて、ごめんなさい、と声を落として謝る。
「私が何か言われることは気にしてないわ。ただ、内宮さんいい娘なのに、凄くいい娘なのに、クラスの人達に気付いてもらえないのが寂しいだけ」
ふわりとカーテンが舞って、窓から生暖かい風が入ってくる。
閉じた口の端を上げる花保ちゃんを、真っ直ぐ見つめる。
口煩い時もあるけれど、他の先生とはちょっと違うんだ。
「下校時間まであと2時間、寝ときなさい。最近眠れてないんでしょう?」
布団に足を入れながら、どうして分かるの?と聞けば、『目の下にクマが出来てる』と指摘される。
「まだ若いのに。家事とか無理してない? 2年生になってから、一人暮らし始めたんでしょう?」
「うん……追い出されたから」
静かにそう言って、横になる。
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