第1話

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 欝が来る欝が来る欝が来る欝が来る欝が来る欝が来る欝が来る欝が来る欝が来る欝が来る!  気づいたときにはもう遅く、道端に咲く名も知らない花の美しさに気づくようにそれはすでに僕の全身を覆っている。  ああ、頭が重い……、心が沈む。 そして無限に続くのではないかと思うような深海の底へと僕を連れて行くのだ。  水圧にも似たそれは僕という存在をギチギチと締め付けながら、いつまでもいつまでもたどり着かない底へと沈降させていく。  そして今回のそれは今までの比では無い速度で僕を引きずりこんでいく。  もう駄目だ。 おしまいだと毎回感じていた絶望ですらも愛しくさえ思える。  絶望を超えた先にあるものは『虚無』だった。   実際の状況は悪くない。 かつては現実的であった命の危険も、他人との軋轢も無く、金銭的な問題も、今すぐ失職するようなことも無いこともわかっている。    今の自分の状況は決して絶望的ではないのだ。 むしろ今までの自分に降りかかった災厄やトラブルを考えればむしろ順調な人生を送っているだろうなと客観的に見えているという自負さえある。  だがそれを頭で理解はしていても心はそう感じてくれない。  いま思えば絶望するのにも理由があった。    だからこそ布団の上をのたうちまわりながらもそれらをどうにか解決する方法を思考することでまとわりつく絶望と格闘することはできた。  だがこの『虚無』である『今』をどう説明すれば理解してもらえるのだろうか?  それは例えるならば、部屋の真ん中にはバナナが吊るされていて、それを取るための道具も説明も聞き、わかっているはずなのに自分はただただそこに立ちすくみ、不思議そうな他人の視線に晒されながらも、その中で一番不思議に感じているのが自分という状況と言えばいいのだろうか?  なんとも妙ちきりんな説明だろうが、数十ページ費やしてもこれ以上に『今』の自分を表現することはできなかった。  こうやって書いている今でさえ『虚無』に捕らわれ、翻弄され、かつて感じたことのない『何か』に懊悩している。  だが同時にある種、この状況に幸福さえ感じている自分がいる。  おそらくこの文章は二度と書くことができないだろうという確信があるからだ。  
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