慟哭

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今朝は特に冷える・・・誰も起きていない。しんと静まり返っている。 白い雪の中に上等な絹の白い寝間着姿に派手な椿の女物の上着を着た男が一人立っていた。なんと美しいひとなんだろう。 男に対して美しいとはおかしな言い方ではあるが、本当に白雪の中に寒椿があるが如く、艶やかでそれでいて清廉な印象を受ける。 「どなたかは存ぜぬが、ここは殿の寝所でござれば・・・罪に問われましょう。早く立ち去るほうがよいと存じます」 「ほう、これはご丁寧に。殿さまのお庭でござったか、失礼仕った。では貴殿は如何かな?ここに居ってもいい者なのか?」 「私は殿さまの庭で飼われた鳥故、ここを出る事のもかなわぬ者」 「それは可哀想に・・・外で羽ばたきたいだろうに・・・殿さまは無体な事をなさるのう」 「殿の事をこの庭で言ってはなりませぬぞ。手打ちになりかねない」 その男は近付いて、そして顔を掴むと引き寄せた。そしてあろうことか・・・・接吻したのだ。 五臓六腑が飛び出そうになる位驚いた。その場にへなへなと座り込んでしまった。 「そなた、殿の小姓か?」 「その下の下働きにて・・・」 声が不覚にも震えてしまう。 「そなたの様な者は殿もお気に召すであろうよ、名は何と言う?」 「征鷹と申します」 「そうか征鷹、そなた幾つだ?」 「この正月で十五になりました」 「そうか、可愛らしゅうしておれ、さすれば殿のお手が着くというもの。そして立身出世したいのであろう?」 「・・・・・・・」
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