慟哭

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正月も一段落終えた・・・・国元には殿さまはいない。 江戸城に年始の御挨拶の後色々な宴やらで江戸屋敷におられる。 今は国家老の驫木様が実質の国を治めている。 殿がいないというのにやはり冬至は夜伽の渡りをしているのを見かけた。 やはり新之助が言う事に間違いはないのだろう。 そういえば、俺が小姓に推挙されたのも家老の驫木だと父が言っていた。 父は驫木派なんだろうか? そんな事は俺には関係ない事とその時は高を括っていたが・・・。 新之助は夜になると居なくなる。また探りを入れているのだろうか。 「新之助、もう夜出歩くのはよせ。冬至が誰と寝てようと俺達には関係ないことだ」 「お前には関係ない」 何か嫌な違和感を覚えた。新之助の様子がおかしい。何か思いつめているような・・・こう言う勘は鋭い方だ、新之助は不味い方向に走っている。 こういうときは大体当たらず触らずを通す自分だが自身もいつもと違っていた。新之助を心配していたのだ。自分でも驚く。 「もう覗きに行くのはやめろ、いいな」 「・・・・・・・」 新之助は黙って俯いた。 やはり動いたか・・・・夜半過ぎ新之助は渡りをする冬至を追っていた。 こっそり後をつけてみる。 寝屋に入り、いつものように痴態が繰り広げられる。 聞くに堪えない睦言が聞こえる。あの冬至が、あの強欲な獣に嬲られている。 突然その寝屋に新之助が踏み込んだ。なんて事を・・・。 あられもない姿の家老と冬至・・・新之助は泣きながら家老の驫木を殴っている。自殺行為だ・・・・俺はただただ何も出来ずに震えていた。 寝巻を羽織っただけの冬至が飛び出してきた。 眼には涙を溜めて・・・一瞬柱の陰にいた時、眼があったが奥の部屋へと走り去ってしまった。 新之助は冬至の後を追いかけて奥の部屋に入った。寝屋でぼこぼこに殴られ、家老の驫木は虫の息だ。 俺はただ呆然とするだけでしばらくの間、二人がいった奥の部屋を見ていた・・・・
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