紅葉

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俺は久々に実家に宛てて手紙を書いている。あの幼かった妹が嫁ぐという。小姓としてお城に上がってから一度も篠山の実家には帰っていない。 殿が宿下がりを許さぬからだ。 まぁ、帰りたくもないので、祖父が病になった時も、兄の婚礼にも帰っていなかった。 ただ今回ばかりは・・・妹の紗枝を可愛がっていた。 別れた時は「ちぃ兄様、ちぃ兄様と縋って泣いていた。 今は綺麗になっているだろう。 「はぁ・・・殿はお許しにはならぬだろうな」 「何が許さぬと?」 「あ・・・殿さま」 頭を垂れて向き直る。 「入る時は一声おかけ下さい」 「ふん、小癪な・・・なにか悪さでもしておるのではないかと思っての。こうして抜き打ちでお前を監視しているのよ」 「壱風に探らせるだけでは足りませぬか?」 「おや、知っていたとは・・・そなた、やはり侮れんの」 ハハハハッと声を立てて笑った。 「あの・・・お願いがございます」 「なんじゃ?お前の伽次第でお願いを聞いてやらぬでもない」 また、これだ…。 「いつもお仕事させていただいていると思いますが…」 「まだまだ足りぬのでな」 「まだ足りぬかっ!この助平親父!」 ふふんっと鼻を鳴らして 「本音で話せ、征鷹。その方がお似合いじゃ」 気を取り直して言いなおす。この頃はつい乗せられて地が出てしまう。 「有り体にに申しますとお宿下がりをお願いしとうございます」 「つまらん!また澄まし顔に戻りやがった…って・・・何だと?宿下がり?」 殿さまは絶句した。 「だめだ!駄目だめっ!」 子供ぽい、もう齢三十にならんとされているお方とは思えぬ。
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