第一章 それぞれの戦いへ

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 彼自身、あの京での出来事は夢だったのではと思う時があるくらいに、調子の良い日にはこうして身体を起こしてそこから見える景色をぼーっと眺めるだけの日々を送っていた。  たまにやって来る実の姉であるミツや診察にやって来る松本良順、身の回りの世話をしてくれる者以外に誰と会うこともなく、隔離された状態が更にその気持ちに拍車をかける。  彼らは総司のもとにやって来ても、外の世界の話をしようとはしなかった。  始めのうちはしつこく聞きたがった総司だが、彼らが自分の身体を気遣って心労をかけまいとしていることに気付いてからは新選組として戦い続けているであろう近藤や土方、仲間達の事を口に出すのをぱったりと止めてしまっていた。  それでも少し思考を廻らせれば彼らは無事だろうかと身を案じているし、今はどの辺りで戦っているのだろうと気にしている自分に気づく羽目になり、その気持ちと周囲の気遣いの間に挟まれて閉口していた。  しかし、それこそが総司にとって自分が彼らと出会い、京へ行き、浪士を取り締まるべく奔走していた日々があったという何よりの証拠だ。    だから、その気持ちを忘れぬよう、尚且つ周りに気取られて気を遣わせることのないよう、もともとすることのない現状をあえて受け入れ、何をするでもなくただただ過ぎて行く時間を見送っているのだった。
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