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不意に近くの縁側から足音が聞こえてきて、はっと総司の目に光が戻った。
足音は二つ。
一つは最近よくやって来るミツのものだろう。
そして、もう一つは聞きなれない足音だった。
聞きなれないにも関わらずよく知っている、それでいて懐かしい足音。
少しせかせかとした、しかし堂々とした足の運びが窺えるこの大きめに響く音。
「まさか」
そう呟き、期待で少し膨らんだ気持ちを落ち着かせようとする。
(ここにいるわけがない。あの人は今、どこかの戦場で他の隊士と共に戦っているはず)
頭ではそう思うのに、それに反して徐々に近づいてくる足音に期待で胸がどんどん膨らみ、向かってくる方にじっと目をやった。
予想通り顔を覗かせたミツは、いつもならば総司が身体を起こしていればしかめっ面をして布団に押し込みにかかるところだが、弟の隠しきれていない期待のこもった顔を見て優しく微笑んだ。
「起きていたのね。丁度良かった、貴方にお客様ですよ」
一旦顔を引っ込め、後ろにいる人物に声をかける。
そして
「よう、調子はどうだ」
顔を出したのは総司が想い描いていた人物。
土方歳三がそこに立っていた。
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