3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっと待って!敏治の意識がなく植物状態ってことは・・・。彼の世話をするのは・・・この私?冗談じゃないわよ。こんな男の為に、これ以上、金なんかかけたくないわ」
和子は慌てた。すっかり、敏治の遺産と保険金が自分のところに転がり込んでくるものだとばかり思っていた。それが、全て台無しになってしまった。人伝に聞いた話でも、植物状態になってしまった患者の生命を維持するのは、相当な金が掛かるらしい。今の時代、敏治の世話をしながら仕事を見つけるなど、和子にはとてもできない。すっかり、主婦としての生活が染みついていたからだ。
離婚するという手もあるが、この状況であっさり、敏治を見捨てれば疑われてしまうかもしれない。疑われなくとも、薄情な女だという印象が周りに植え付けられ、尚かつ、遺産も保険金も手に入れられなくなる。
それに、払い戻すと言われた金だって、どうなっているのか分からない。
「電話・・・。電話・・・!」
和子は病室を抜け出すと、公衆電話へと駆け寄った。彼女は逸る気持ちを抑えながら公衆電話に硬貨を投入して、Gに連絡を入れた。
『もしもし』
「もしもしじゃないわ!どういうことなの?夫が意識不明って」
『だから言っただろう。オレは敏治を殺すのに失敗した。病院では不審死はあってはならない。どんな些細な事故死でも疑われてしまう。これ以上の殺人は不可能だから、払い戻しをすとオレは言ったんだ』
「だったら、その事前に払ったお金を返してよ!こっちは、何とか離婚する手立てを延命させている内に考えないといけないんだから」
『お金を返す?何のことですか?』
「何のことって・・・。払い戻しをしてくれるって今も言ったじゃない」
『何か勘違いをされているようだな。オレは殺すのに失敗した。だから、殺し損ねた旦那を、あんたに返したんだ』
「何ですって・・・」
『殺し屋のオレが言うのも、変な話だが、この世に命より価値のあるモノなんてないだろう。あんたはもう前払いした金以上のモノを得たんだ』
Gはそう言うと、和子の苦情も聞かずに一方的に電話を切った。
和子は慌てて、電話を掛け直すも、もうGの電話は二度と応答することはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!