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「分かったわ」
和子は頷き、受話器を置いた。そして、タイミングでも見計らったかのように電話が鳴った。今度は、普通の呼び出し音だ。おそらく、Gが言ってた相手からだろう。和子は気持ちを落ち着かせて電話に出た。
「もしもし」
『こちら、A総合病院の者ですが、奥様はいらっしゃいますでしょうか?』
「私・・・ですが」
『落ち着いて聞いてください。旦那様の敏治さんが、つい先程、事故に遭われて、こちらに搬送されてきました』
「な、何ですって!」
和子はわざとらしく驚いてみせた。Gは事故専門の殺し屋だ。当然、失敗したとはいえ敏治が事故に巻き込まれているのは想定の範囲内のことだった。
『それで、今すぐに病院へと来ていただけませんでしょうか』
「わ、分かりました」
和子はA総合病院の住所を書き留めると、さっそく、そこに向かった。敏治が生きていたことは計算外のことではあったが、怪しまれないようにする為には妻という立場を演じきるしかなかった。
病院に着くと、敏治の容態について主治医から説明がなされた。
その説明は決して、和子にとって良い内容ではなかった。敏治の容態は思わしくなく、頭に損傷を負ったせいで植物人間状態であるということだった。
和子は看護師に病室まで案内された。病室では敏治がベッドの上で呼吸器を取り付けられたまま目を閉じて眠っているかのようだった。時々、上下に動く掛け布団が彼がまだ生きていることを示していた。ただ、意識がないだけなのだ。
和子はベッドに駆け寄るとわざとらしく泣いてみせた。看護師と主治医は彼女に気を遣い、病室から出ていった。
しばらく病室で悲劇の妻を演じていた和子は、ふと、おかしなことに気付いた。
「そう言えば、Gはどこなのかしら?」
和子はどこかでGからの連絡を受け取るとばかり思っていた。ところが、いつまで経ってもGからの連絡がない。これでは、次に何をしたらいいのか分からない。お金はどのようにして払い戻されるというのか。入金ならば、自分の口座番号を教えなくてはならない。和子は病室で右往左往しながら待ち続け、やがて、恐ろしい事実に気付くのだった。
いや、正確には事態は良からぬ方に動いていることに気が付いたと言った方が正しい。
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