最後のクリスマス

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  「う、嘘だ、いるわけない……」 そう言いながら雪奈は、俺の前で一筋の涙を零した。 記憶が戻ったあの日、君の元へ向って走っていった。今の自宅から1時間もかけて。 走って、走って、走って。 ただ逢いたかった。 姿も全て変わってしまったというのに。 あの日、君の家の前で立ち尽くす俺を見つけて、部屋に連れて行ってくれたね。 嬉しかったよ。指輪も、ちゃんと動いている腕時計も。忘れられてないのは嬉しかった。 俺が死んで8年。 あの時計はオートマチックだ。ちゃんとオーバーホールして、こまめに動かさないと止まってしまう。 でもそれが、君を縛っているように見えた。 大切な……幸せになるべきだった君の20代、俺のせいでごめんな。 でも30代の今の君だって遅くない。今も充分綺麗で、幸せにしてくれる人が近くにいる。 「さっさと忘れて弟と幸せになってって。じゃないと逝けないって」 俺の自慢の弟だ、あいつなら大丈夫。 「嘘だ……他の人となんて言う人じゃないも……」 雪奈は泣きながら呟いた。 うん、そうだよな。俺、独占欲強かったし。 この姿で無ければ、弟であろうが渡すかよ。
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