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「仕方ないだろ、馬鹿かお前は……だって」
思った事をそのまま言った。
「何、それ……」
泣きながら笑う彼女の姿。昔と全然変わらない。
「お姉ちゃん、泣いてるけど大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。有難う……まだいるの? お兄ちゃん」
「うん」
「絶対忘れないんだから! ……って言っておいて」
その言葉に歪みそうになる顔を、必死で抑える。
馬鹿な女だな本当に。
お前のせいで俺まで泣けてきた。
身体を丸めて泣く彼女を抱きしめる腕が、今の俺にはもう無い。
そっと彼女の頭を撫でた。柔らかくて懐かしい髪。きっと触れるのはこれが最後。
「……有難う、慰めてくれて」
「好きだから幸せになれって言ってんだろって、怒ってるよ。お兄ちゃん」
それを聞いてまた彼女は笑った。
「好きとか……絶対言わない奴だった。だからやっぱり嘘だね。でも幸せにならなきゃね、もう30だもんなぁ……」
独り言のように呟く声は、切ないけど何処か前向きにも聞こえた。こんな俺の演技でも、少しは役にたったんだろうか。
しっかりしろよ。
俺の惚れた女は、そんなにヤワじゃないだろ。
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