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「お兄ちゃん、もう逝くって。だから僕も帰るね」
「翔太君1人じゃ危ないよ。お姉ちゃん送っていくよ?」
「へーきだよ。ちゃんと帰れる。……お兄ちゃんね、忘れないって」
「え?」
「ずっと忘れないから幸せになれよって、最後言ってたよ。じゃあね、お姉ちゃん」
「う……ん、気をつけて……」
雪奈の瞳からまた涙が零れた。
ごめんな、最後に泣かせてしまって。
忘れて欲しいけど忘れないで。そんな本音が出てしまった。
完璧にやり切れないでごめん。
俺は来た道を戻る。
途中振り返ると涙を拭った仕草をした後、雪奈も歩き出した。
それでいい。もう、立ち止まらないで。
冬の空の色は薄く、青く、消えてしまいそうな色をしていた。
澄んだ空を見つめていると、何だか吸い込まれそうだ。
本当は……。
もういっそ、後10年待たないか? そう言ってしまいたかった。俺の身体が成長したら、欲しい事全部してあげる。
俺はまだ10代で、君は40代でも構わない。周囲が納得するだけの地位も、すぐ手に入れてみせる。
無茶苦茶だけど、言いたかったよ本当に。
好きだったんだ、それくらい。
長い人生、一緒に歩むのは君しかいないって思ってたんだから。
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